トリビューのCTOになりました、と、これまでのこと

随分と報告が遅くなってしまったが、7月いっぱいで1年と少し在籍したリクルートを退職し、8月からトリビューという美容医療系スタートアップへ転職した。2017年の5月より開発を中心に携わってはいたが、メンバーとしてはもちろん、CTOという立場で経営も含めより深く参画する。

トリビューは美容整形の体験談を掲載する口コミ・予約アプリだ。実際の美容整形経験者の経過写真や感想を読んでクリニック選びができるようになっている。美容整形版の食べログというとわかりやすいかもしれない。

初めて聞いた時は驚いたが、20代女性の10%は美容整形経験者といわれている。それほどに大きい市場ではあるが、医療情報やコンプレックスが関わるということもあって、リアルな情報になかなかアクセスできない環境にある。エンドユーザーが「元には戻せない」決断をするために、必要な情報が絶対的に不足しているという非常に大きな課題がある。

サービスについてはトリビューの代表である毛(モウ)のエントリを読んでもらうのがわかりやすいかと思う。(必読)
「美容整形は魔法じゃない」トリビューCEOが考えるサービスの提供価値とは

自分のことになるが、2012年2月に自分で会社を作ってから早6年半、その時その時の気持ちにまかせ、キャリアに関しては確固としたテーマや目標を設定せずにきた。最近ではその中でもコレだけは今しておきたいというものがあり、それが「結果を出すこと」だ。

今もこれまでも、自分で考え・作り・売るという学生時代からの興味の延長として、ビジネスモデル、プロダクト、チームや組織など、広い意味での事業のデザインに興味があり携わっていきたいと思っている。しかし「プロフェッショナル」が求められる業界において、こんなにふわっとしたベクトルでよいのか、これまでの自分のチャレンジは正しかったのかと考えることも少なくはない。結果を出すというのは当たり前のようだが、負け続きの自分にとっては、そういった迷いをまるっと晴らしてもらうために今一番必要なことだと思っている。(そろそろ結果を出したい)

社会的に見た課題の大きさと、個人のキャリアも考えたときに、トリビュー、もっと言えば毛と事業をつくることが最良の選択肢だと思ったためジョインすることにした。

トリビュー、今

トリビューがサービス開発で大切にしているのは、「いかにユーザーの感情に寄り添えるか」ということだ。 例えば、自分の顔にメスを入れて二重にしてみようと決意する。

傷は残らないのか…?どのぐらいで治るのだろう…?そもそも変にならないだろうか…?

実際に体験していなくても少し考えただけでたくさんの心配や疑問が思いつくと思う。

全然腫れが引かない…。左右に差があるが失敗なのか…?

手術をして終わりではなく、術後も多くの不安を感じている。トリビューは不安や心配を解消するためになにができるか、寄り添い支えることができるのか?「ケア」だけではなく、手術を決意する勇気を後押ししたり、思っていた姿になれた時の喜びをもっと大きくするにはどうしたらいいか?

常にそういったユーザーの気持ちや体験の価値が議論の中心になるのが、トリビューのサービス開発の特徴だと思う。

エンジニアも(特にいまのフェーズでは)技術ドリブンな動き方というよりは、上記のようなユーザーのストーリーを起点に動いている。そのため、エンジニアから施策の提案を行うことも多く、ヒアリング、UIへの落とし込みや実装といった具合に個々人の役割をあえて曖昧に開発をしている。なるべくユーザーと近い距離で開発をしようとしているのがいまの開発チームの取り組みだ。

サービスは幸い拡大を続けており、プロダクトマーケットフィットと言えるところまで検証も進んできている。ここから一層スピードを上げていかねばならない段になり、技術的なチャレンジが不可欠な場面も日に日に多くなってきている。いま持っている良さでもあるユーザーとの距離感を保ちつつ、いかにエンジニアリングのパラメータも大きくしていくことができるのか?このあたりが自分やチームにとっての当面のチャレンジになるのではないかと思う。

僕に求められているものも、業務委託やインターンなど含めても10名に満たない今は(うちエンジニア3名)、第一にエンジニアとして手を動かしてプロダクトを前に進めることだ。サービス、組織を大きくしていく中で、CTOという役割をここからどう定義していくことができるのか、しばらく色々やってみようと思う。


転職、そして今の活動の報告は以上で、ここからはあくまで自分のために、今までやってきたことや考えてきたことを、振り返って残しておこうと思う。こんな機会でもなければやらないだろうから。なので少し長くなる。

お前の人生に興味はない、という人も最後のセクションだけ読んでもらえると嬉しい。

起業、失敗

サービスづくりや事業開発の一歩目は、大学卒業後立ち上げたファッションに特化したクラウドファンディングINVITATIONS|インビテーションズ」だ。当時はイギリスへの美大進学を控え、自分が志していたファッションデザイナーを取り巻く環境を実際に見て、「新人デザイナー/若手ブランドがより早くから活躍できる機会を作りたい」という想いでサービスを立ち上げた。

開発はもちろん、デザインや営業、取材をなどのコンテンツ制作、イベント運営、マーケティング、広報など、全くの未経験という状態からスタートして約半年運営をしたが、クラウドファンディングという手法をファッションの領域でうまくワークさせることができず静かにクローズした。

手法を変えてリベンジするということも考えたが、自分のスキルや経験は取り組もうとしている課題を解決できるレベルにあるのだろうか、このまま突っ走っても同じことの繰り返しなのではないか、と悶々としていたのを覚えている。業界経験もない若者に協力・応援をしてくれたデザイナーや関係者の方々への感謝、それゆえの「しっかりとアイディアを形にしきれなかった」という悔しさは忘れることはないと思う。同時に、生活のすべてをなにかに捧げ、文字通り夢の中でもコードを書いて、営業をした経験は今の自分を形作っている大きな要素でもある。

起業やキャリアの文脈でもよく語られる「原体験」だが、自分にとっての原体験はこの時感じた「無力感」と「充実感」なのだと思う。

ベンチャー、失敗

サービスクローズから半年ほど間を置き、ECのブランディングやコンサル得意とする「ネットコンシェルジェ」という制作会社に新規事業の担当として入社した。そこからは約3年半、「Cart|カート(当初はPeople&Store)」というサービスをつくっていた。当初は様々なECサイトの商品数十万点から、ユーザーの好みや購買履歴に応じて毎日おすすめのコンテンツを配信するサービスだったが、最終的にはコマースの機能も備えたECのプラットフォームとなった。会員数などある程度の規模まで拡大することはできたが、マネタイズに苦しみ、最終的にはキャッシュアウト間近で別事業会社に事業譲渡が決まったため、そのタイミングで退職した。

こう書けば一瞬の出来事のようだが、この3年半は本当に色々なことがあった。

入社当時はいわゆる売れっ子の制作会社だったが、その地位を捨ててクライアントワークの一切を辞め、2億円以上を調達し制作会社から事業会社への転換を決断。当然のごとく痛みはとても大きいもので、15人ほどいたメンバーも入れ替わりも含めて最後には5名になった。そこに至るまでの組織やチーム、人間関係や業務フローの変遷。状況を打開するためのピボット。それを締めくくるキャッシュアウト。等など...

なにかを生み、それを終わらせなければならないというのは本当につらい体験だ。

それでも個人としては、多くのことを学んだ。はじめての本格的なチーム開発だけでなく、年齢もスキルも自分より高いメンバーのマネジメント、経営層とメンバーの橋渡しなど、サービスや組織を作っていくための試行錯誤はこれでもかというほどさせてもらった。当初は腰を据えて開発を学びたいと思っていたが、蓋を開けてみれば営業やカスタマーサクセスのサポート、デザインやマーケティングは実務に至るまで広く携わっていた。

そういった中で、いかにサービス全般をワークするよう設計・構築していくかというところに、あらためて興味が移っていった。開発だけしていてもサービスは前に進まないという状況で、必要に迫られてそう思うようになったということもあるだろうし、過去の「無力感」から、アイディアを形するのは任せてくれ、と自信を持って言えるようになりたかったというのもあると思う。

トリビューの代表、毛との出会いはこのときだ。
カートが出資をうけていたVCに彼女がおり、サービスのためならできることはなんでも!と手伝いに来てくれていた。退職直後には一緒に美容医療領域でサービスをつくらないかと誘いをもらったものの、この時は長考の末にお断りをした。起業時からずっと慌ただしくサービスをつくってきて、これからどこを目指していきたいのか、自分のなにを伸ばしていくのか、そういったことを客観的に考え試す時間をとりたかったからだった。

スタートアップのような小規模な組織で、サービス開発全般を経験し、なにかをひとりで形にするスキルはある程度身についたと思う。同じような環境に長くいたこともあるのか、なにかのプロフェッショナルにならなくてよいのか?このまま今のように広く構えていて、最初に感じた無力感は拭えるようになるのだろうか?という気持ちはそれでも強かった。

では、いままでと違った環境で働いてみようというところに、つながりのあったエージェントから、リクルートのメディアテクノロジーラボは?と勧められ、人生で初めての採用面接を受けた。

リクルート、試行錯誤

リクルートホールディングスのメディアテクノロジーラボにエンジニアとして入社し、3つのサービスの立ち上げや拡大を行った。 在籍期間はトリビューを含む2社の兼業も合わせると計3社5プロジェクトに関わり、間違いなくこれまでで一番自由に試行錯誤をさせてもらった期間だった。

そもそもメディアテクノロジーラボ※(入社時には「新規事業開発室」、退職時点では「次世代事業開発室」に名を変えている)は、リクルートの新規事業提案制度である「Ring」から起案されたアイディアを、ビジネスとして形にしていくための組織だ。(2018年7月現在)プロダクトもリーンキャンバスとにらめっこするようなものから、シリーズB間近といったものまで多種多様なフェーズのものを育てている。

フェーズだけでなく業種やビジネスモデルも様々で、関わった3つのサービスを例にあげても、トレンドになりつつある副業人材向けのクラウドソーシングや、事業承継を扱う硬めのBtoB、C向けの獣医師相談サブスクなどがある。

エンジニアとして入社してはいるものの、自分のミッションは簡単に言ってしまえば「プロダクトを成長させること」。立ち上げて間もないプロジェクトは起案者1〜2名(だいたい営業やマーケ職)にエンジニアがひとりというケースもあり、開発者としての自分を軸にはしつつ、PM的な役回りやデザイン、ときに営業支援的なところまで幅広く携わった。

エンジニアとはいえ初期のフェーズでは特に、アイディアの輪郭をはっきりさせ、多く・早く検証ができる環境を(ときに強引に)つくる力を求められる環境だと思う。そういった点では大企業とはいえスタートアップに似た環境にあり、自分も起案者に対してはリクルートの社員ではなく、イチ起業家、イチ社長としてのマインドを求め、そういったコミュニケーションをとるようにしていた。

リクルートと並行して、兼業として前職カートの売却先企業とトリビューの2社にも関わった。 前者では、技術指導や開発フロー整備などのチームビルディングのサポートをしたり、リーンスタートアップ的な考え方の普及・定着、デザインのワークショップなど、事業や組織をより強くするための業務を中心に行った。

そして、トリビューはこの期間に初期のリリースを迎える。開発を始めてみたらいると聞いていたエンジニアがいなくなっていたり、リリースまであと1ヶ月というところでエンジニアが入院して離脱したり…。なかなか大変な立ち上がりだった。デザインの1ピクセルはおろかデザイナーもその予算もなし。毛含めて全員が兼業しながらでフルタイムメンバーもゼロ。それでも最低限のリソースと最大限の時間を使ってアイディアを形にしていくプロセスは何度やってもワクワクするもので、他では得難い経験だと思う。

かなり慌ただしい1年間ではあったが、フェーズや環境、カテゴリも違う様々なプロジェクトに同時並行で関われたことで、自分の進みたい方向もずいぶんとはっきりした。

自分のスキルなど役に立つのだろうか?と思っていた時に、色々なアイディアを形にするために少なからずバリューを発揮できたことは、開発のスキルを深掘っていくといった方法論ではなく、0-1・1-10などの初期フェーズの成長を最速・最大化するという目的に特化して、それに必要な総合的なスキルやバランスを限りなく突き詰めていくというやり方を肯定してくれるような経験だった。これまでは1プロジェクトのあらゆることを考える仕事の仕方をしていたが、多くを一度に抱えるようになったことで、本当に必要なステップやマイルストーンは何なのかをより突き詰めて考えるようになったことも思わぬ副産物だ。

忙しくも生活はとても充実していたが、自分のこれからの方向があらためて確かになるにつれ、なるべく早く結果を出したいという気持ちが強くなった。そのためにはなにかに専念したほうがよいと思い、わずか1年という期間ではあったがリクルートを退職することにした。

関わっていたすべてのプロジェクトの方々が、わがままを受け入れて暖かく送り出してくれたことにはとても感謝している。

トリビュー、これから

トリビューは『「綺麗になりたい」を叶える会社』を目指している。これは代表の毛が持っている「生き方の選択肢を増やし、応援したい」という価値観からくるものだ(と思っている)。

年齢や性別なんて関係ないとは言うものの、20代、女性である彼女にしかできない、変えられない、ということはたくさんある。これはユーザーとのコミュニケーションや周りの反応を見ていても実感として強く持っている。いまは「美容整形」を題材にしているが、今後も同じように自分のミッションに従い、色々な「生きづらさ」を解消していくのだろうと思う。形を問わず自分ができること(いまはCTOだがそれにこだわりはない)で、そのサポートをしていきたいなと思っている。

ちょっと語りすぎたことは承知の上で、少しでもひっかかるところがあればぜひ一緒に働きましょう。話だけでも。

こちらから

そして、さすがに長くなりすぎて割愛した部分もあるので、なにか聞きたいことがあればTwitter等で声をかけてほしい。

@obi_yuta